細ハリスをカバーする“指ブレーキ”
「牟岐の見えるグレが食わんのよな。それでハリスを細うしたら食うけど切られるし、それでこれを考えたんよ」
鬼才が27歳のときだ。いまから53年前のことだ。言うまでもないがレバーブレーキ付きリールが微塵も存在していない時代である。リールの脚の部分を人さし指がローターに届くように自分で切断して1cmほど短くし、人さし指をリールのローターの後ろに当ててブレーキをかけられるようにしたものだ。いわば“指ブレーキ”だ。
扱い方はいまのレバーブレーキと同じでグレが引いてラインが切られそうなら人さし指を微妙に緩めラインを出し、巻き取るときは人指し指の力を解除してハンドルを巻き、グレを寄せるわけ。
このリールは当時、高価なものでアメリカ製のトゥルー・テンパー707というものだ。使い込まれた傷だらけのボディーにグレに対する当時の執念が感じ取れる。いまでは当たり前のレバーブレーキ付きリールだが、ただ釣りたいから試行錯誤の末、考えたのだからすごいのひと言だ。ここまでやるのか、と言ってしまいたい!
それから何年かあとにダイワ精工(当時)やシマノからレバーブレーキ付きリールが登場したのだ。現在はさらに進化を続け、53年前には考えられもしなかった高性能で優れたリールを鬼才は愛用し、数々の実績を残し続けている…。