10月はお休み! のはずが…
「行きとうないわっ! 無理です。10月はお休みです。こんな水温の高いときにわざわざ行くことないで。それでも行けいうんかい。しゃないヤツやなあ。魚釣りはなあ、魚の釣れるシーズンに合わせて行くもんやぞ。ほんまにいうとくぞ、釣れんぞ。エエんやな。それでどこへ行くんや。なにっ、釣れてもハマチのこまいヤツやぞ…」
いまから25年前の2000年10月上旬、鳴門の松田邸へ電話をかけて、イヤイヤながら取材のOKをいただいた。2001年発売予定のビデオの締め切りがせまっていたので強引に取材を段取りしたのであった。当時はなんでも無理を聞いていただける優しき鬼才、55歳の秋…。高水温下でいかに悩みながらグレを引き出してくれるか、という取材を密かに企てる意地悪な細田だった。すみません!

行き先は誰もが知る愛媛県日振島である。車窓から見る愛媛の風景はまだ夏だった。例年グレのベストシーズンは12月からで水温が低下して安定したころだ。口太は多いが尾長は少ない。尾長の良型は初夏と晩秋に本流筋で狙えるが、やはり口太がメインターゲットとなるのが日振島。実は10月にトライすれば、ひょっとしたら尾長が釣れるのでは、というのも今回の密かな企みだった。
獲物が食われる! サメの奇襲攻撃に苦戦
「わあっ、サメじゃ! ハマチが食われたぞ。どうにもならん、ガバッと一発じゃ。こんな状況だったらグレなんか釣れんぞ。こんなサメがおるということはグレが沖へは出んやろ。サメに食われる前に一気に取り込むしかないなぁ。仕掛けを太いもんに替えるぞ」
日振19番という磯で早朝からサメの奇襲攻撃に遭遇した。それで沖の磯はダメだということで地方寄りの日振12番に替わった。正午前から潮が速くなってきた。上げ潮だ。足元では木っ葉グレが群がっている。とりあえず地方よりに替わったのは正解か?

「やっと見えたぞ。口太がおるのう~。小グレの下にチラチラ、なんとかなりそうやのう。いまからがんばりますわ!」
とにかく水温が高いからエサ取りたちの活性が異常に高い。当然、グレも元気いっぱいだ。いつ下層から良型のグレが飛び出してくるか分からないという面白い状況だ。サメはいないがエサ取りが問題だが…。

突然、潮下の30mくらいでウキが消し込んだ。ウキ下は2ヒロ。だが、軽い。ヒットしたのはイサギの25cm級。3連発だ。それでウキ下を2ヒロ強に深くしたのだ。再度同じパターンで攻め込む。ところが今度はハマチのお出まし。気持ちよく竿を曲げて横走りを繰り返すのは45cm級。これも3連発させた。エサ取りたちを巧くかわしてのゲット!
グレが見えているのに食わない状況にエキサイト
上げ潮のスピードはまだ変わっていない。間違いなくいまが時合いだ。鬼才は自分の目でグレの姿を確認している、だから地団駄を踏む。いらだちがカメラ越しに伝わってくる。グレがマキエを口にしているのに食わせられない。鬼才が最も頭に血がのぼるパターンだ。意地が爆発しているようだ。そうこうしている内に一瞬動作が止まった。鬼才は何か閃いたようだった。ウキの投入点をかえたのだ。上げ潮の流心より手前の流れの弱いところに目を付けたのだ。
「よしよし。てこずらせやがって。やりました、グレですわ。そんな大きないでっ!」

ロッドの復元力だけでグレをあしらいリールから道糸を一切出さずになんなくフィニッシュを決めた。表面水温23.5度から引きずり出した42cmの口太。きれいなグリーン色の魚体がまぶしい。
「水温高いときは口太の動きがようないなあ。磯際の深いとこでゆっくりと泳いどんな。そこへサシエをもっていかんと食わん。それが尾長やったらシュッと浮いてくることがあるんやけど。まあ、10月の海ではこんなもんやろ。細やん、絵になったかい…。早よ、家へ帰ってビールをやろうぞ!」